なえし子の座るトイレに響きもち排尿音はチロリと音のす 言葉なく呼びかけても応えぬ塑像ごときこの子に絵筆手を添えてかく からくりの人形のごとくに倒れこみ眠りにつかむなえし少女は 葉ずれ音耳にさやけしなえし身の少女を抱きて排尿させており 倒れては又立ちあがるべこのごときなえし子をああ見守るしかなし てんかんの重き少女のしあわせはと眼のぞけばアルカイック スマイル くそよだれつきし手をば洗いたり洗浄すればもとの手になる 着脱も排尿便も人の手にされしまま生く十一歳の誕生日 福祉というあまりにもとおきしあわせを追い追いかけて日日(にちにち)のすぐ 1988年 角川「短歌」9月号掲載 |
立身も出世もなくひたすら生きる知恵おくれ者に学ばねばならぬ 折れそうな手足の細き少女なり立ちどまりては野の道あゆむ 「なえし子がいない生活なんて考えられないわ」親の言葉をうなづきて聞く いのちある者のなべてはうつせみの生命のかぎりは生きねばならぬ 節々が痛む身体にて介助する足なえし子も息せきていて 胃、胆嚢摘出しいて思いおり上海飯店のあの品々を なすすべがなくて雨あしみておれば足許に咲くもじずりの花 胃底より嘔吐 くる気は春の海あおきをみればしずまりくるか 貝がらを踏みつつあゆみ胃摘出なぜなんだよと腹立ちのわく 足なえの子を支えて若葉道子もわれも耐えねばならぬ |