てんかん撲滅

プールで子供の水泳指導をする写真、子供がうれしそう

肢長き知恵遅れ児の瞳濃くみつむる眼射しは遥かの空に

うつむきしはにかみ顔に草映ゆる午後の日射しの照り付ける時

硝子戸に爪奇声あぐ外に出んと少年は戸を無理にあけおり

幾人ものてんかんの子ら知りたれば語気つよめていうてんかん撲滅

掌の動き息もとまりてきわまりをむかえし時に深く呼吸す

コンクリートの床に頭をはずませて弾け倒れし君が病よ

倒れしもからくりごとくにのびちぢむ躰を抱きて待つ時の間よ

頬につきしクローバの葉をとりてやる発作終わりてただねむる子の

少年に真剣に工作指導をしている写真

納屋奥にひそか寝かされいし君を垣根にさがす少年の日

倒れれば息を吸うなようつるぞとてんかん仲間を差別せし日の

てんかんと話をするな同浴も禁止されいし過去の因習

てんかんを恐れいしは過去のことかプール禁止は今もつづきて

優しかり少女を襲うてんかんのいつまで稚きままにしておく

言葉数めっきり減りしと嘆きける いつまでも稚しままに生きゆく

てんかんの撲滅かかげし集会に病児を抱きてくるもの多し

手離せば空に翔びゆく気持しててんかん児の肩抱きてあゆめり

砂浜で女の子が昇氏の腹の上に乗っている

知恵の紙発作の毎にはがれゆきあどけくいとしままに生きゆく

発作より醒めし幸子よしばらくは小首をかしげわれをみつめる

発作後の物憂げの身をあずけくるいたずらっぽき身を投げ出して

くろぐろと幸子の眼(まなこ)は何処をみる視点定まらぬ眼で僕をみる

巨大な魔力を持つは何の力ぞ子をくるくるとまわせしものは

大脳のみえぬ力かニューロンの過剰なものが君を襲いぬ

発作より眼醒めし幸子は膝枕 遠き眼(まなこ)で雨をみている

親の愛ひたすらかけて育てしと思いめぐるに憎し日もある

アリの面をつけ、お遊技をしている写真

学校のチャイムの音に力失せ倒れてゆける子をば抱きている

不用意に名前を呼べば海老ごとく弾みて倒れる病はなんぞ

布からも滲みてくる血汐君呼びし声に発作し倒れゆきて

倒れゆき頭皮にくいこむ小石つぶ地面を打ちし音はのこりて

口角をつぼませ笑をころがせる君がわらいも発作の形

笑(エミ)わらいたのしげ笑うこのことも発作であればわらいとはなに

子が笑いつれだち親も笑いいし発作の笑と知りてしずまる

ローソクの火が細るごとやせゆきぬてんかん病に襲われし子は

他の子ともお話してたのに月日すぎ言葉なくなりしてんかん病は

梨園での記念写真

年ごとに言葉数きえ痴呆化すわが子を見やる無常とも

痙攣の子をば抱きて走りしか冬霧濃ゆし春暗き街

何思い走りてきしか子を抱き暗き灯の下医師を待ちおり

醒めるまで寝かせておけばよい等と気長なことをいう医師を憎みし

ひきつけし子の異様さに驚きてなすこともなく抱きたるのみ

痙攣がおさまるまでの長き刻あらゆる時計が休んでいるか

1989年角川「短歌」賞候補作

お誕生日会で司会をしている写真

右左、バランスとりて廊下ゆく公道なれば蔑視(べっし)が光る

足なえが公道ゆくにジロジロとあの子はどうしてひとりであゆむ

足なえがひとりでおれば恩きせかましい人々があまりにもいる

右左 束縛されて生きゆけるお前も障害者の一人ではないか

精神薄弱とはばからずいうこの子には神がやどらないのか

少年に工作指導をする写真、筆に何かをつけようとしている

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