熊野権現縁起(五衰殿)

わかやま絵本の会 「くまののかみさま」 巻末付録 解説(高橋修 和歌山県立博物館学芸員)より引用
 昔、天竺(今のインド)のマカダ国に善財王(ぜんざいおう)という王様がいました。王には千人の妃がありましたが、いまだ子宝に恵まれません。五衰殿(ごすいでん)に住む女御は、千人の后のうちの一人です。いまだ王から一度も訪ねてもらえないことを悲しみ、一心に十一面観音にお祈りしました。するとその功徳により、女御は王の寵愛を受けるようになり、やがて王の子を身籠ったのでした。一方、九九九人の妃たちは、女御を激しく嫉妬します。にせの占いをさせるなど、女御を陥れようとしますが、なかなかうまくいきません。そこで妃たちは、九九九人の大女に鬼の姿をさせ、悪王子が生まれることを悲しむ神仏の使いだといって、二人のもとに乱入させます。王は仕方なく、女御のもとを去っていきました。
 それでもなおあき足らない九九九人の妃は、七人の武士に命じて、五衰殿の女御の暗殺をくわだてます。山の奥深く連れ出された女御は、首を斬られる直前に、王子を出産します。女御はすぐに首を落とされますが、王子は母の遺体の乳を吸い、動物たちに護られ、すくすくと成長します。三年の歳月が流れた頃、山の麓に住むちけん上人が文机に経典を広げると、虫食いが文字のように見えています。それは女御の霊が虫に化身して刻み付けた、王子救出を上人に託す歌だったのです。
 山に入ったちけん上人は、やがて蓮華に乗り瑞雲をともなった王子を見いだします。王子は、これまでの経緯を上人に伝え、ともに女御の遺体を火葬した後、山を下りました。寺に入って学問を積み、やがて父の善財王と対面がかないます。王は、九九九人の妃を問い詰め、女御の首のありかを白状させ、王子と母とは、悲しい再会を果たします。しかし十一面観音の利益によって女御は蘇生し、親子三人とちけん上人は、憂き国を捨てて遠く日本の熊野めざして飛び立ったのでした。家来たちも次々と飛び立ちます。九九九人の妃も後を追おうとしますが、護法善神に大岩を投げつけられ、つぶされてしまいます。マカダ国を旅立った一行は熊野に到着し、善財王が早玉宮(本地・薬師如来)、五衰殿女御が結宮(本地・千手観音)、ちけん上人が証誠殿大菩薩(本地・阿弥陀如来)、王子が若一王子(本地・十一面観音)となって、今もこの地に鎮座しているのです。
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