『「安
倍晴明」藤巻一保著 学研』を参考に
「安倍仲麿生死流傅輪廻物語」を見て行きます。
白狐が、童子丸に語った安倍保名の家に葛子と化けてやってきた目的とは何だっ
たのでしょうか?
一つは、助けられた安倍保名に対する恩返しの想い・・・・しかし、もう一つは「簠簋内伝金烏玉兎集(ほきないでんきんうぎょくとしゅう)」を盗み取るた
めでした。
しかし、保名の愛に包まれ、童子丸という子が出来て、幸せに暮らすうちに、当初の目的を果たせなくなってしまったのだと語ります。
なぜ、白狐は、「簠簋内伝金烏玉兎集」を狙ったのでしょうか?
ここで、物語は、賀茂保憲、安倍保名、白狐を廻る前世譚(ぜんせいたん)へと変わります。
賀茂保憲の前世(先祖)は、前節でも出ましたが・・・吉備真備。
安倍保名の前世(先祖)は、唐で客死した阿倍仲麻呂。
白狐の前世(先祖)は、吉備真備に助けられ、同時に「簠簋内伝金烏玉兎集」を狙い、吉備真備にくっついて、唐から渡って来た女性だというのです。
さあ、それでは、安倍晴明の前世譚を語りましょう。
●鬼となった阿倍仲麻呂と吉備真備
時は、元正天皇(げんしょうてんのう)の御代、その頃、随一の英才と知られた阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)は、天皇からの勅命(ちょくめい)を受け、唐
の国、第一の宝物「簠簋内伝金烏玉兎集」を譲り受けるべく、唐の国に渡ります。
玄宗皇帝は、始め、「簠簋内伝金烏玉兎集」を渡す事を惜しむのですが、やがて、阿倍仲麻呂の才に打たれ、寵愛し、重用するようになります。そして、阿倍
仲麻呂は、ついに、玄宗皇帝から「簠簋内伝金烏玉兎集」を譲るとの約束を取り付けるまでになりました。
しかし、阿倍仲麻呂は、玄宗皇帝の仲麻呂の重用を、危ぶんだ安禄山(あんろくざん)と楊国忠(ようこくちゅう)によって、高楼(こうろう)に閉じ込めら
れ殺されてしまいました。
その後、阿倍仲麻呂は鬼と変じ、唐の国の人々を脅かしたといいます。
阿倍仲麻呂が唐の国に渡ってから数年。仲麻呂からは、何の連絡もなく、日本では、阿倍仲麻呂は、唐の国に魂を売ったのだという噂が出ていました。
阿倍仲麻呂は、逆臣(ぎゃくしん)の汚名をきせられ、家族の者は、官位を奪われ、所領(しょりょう)を没収され、都を追われました。
そして、仲麻呂に変わって、今度は、吉備真備が選ばれ、「簠簋内伝金烏玉兎集」を取りに唐の国に渡る事になります。
これは大変!と安禄山と楊国忠は、やってきた吉備真備をいきなり、阿倍仲麻呂を閉じ込めて殺した高楼に案内します。
吉備真備を、鬼に取り殺さそうというのでした。
しかし、鬼は、吉備真備が、日本から来た事を聞くと喜び、自分が阿倍仲麻呂である事を打ち明け、吉備真備に協力を申し出ました。
次の日、もう死んだものと高楼にやってきた唐人らは、吉備真備が、生きているのを見て、びっくりし、今度は、吉備真備に次から、次と難題(なんだい)を
しかけるのでした。
●隆昌女と囲碁勝負
安禄山と楊国忠は、其の頃まだ、日本に伝わっていなかった囲碁の勝負を吉備真備にさせる事を思いつきます。
この囲碁で負けた方が首を斬るという首かけ勝負をさせようというのです。
この勝負のため、囲碁の名手として「玄東」という男が選ばれました。
実は、この玄東は、真面目ですが、魯鈍な質で、もともと囲碁の才能も持ち合わせていなったのですが、その妻の隆昌女(りゅうしょうじょ)が美しい才媛
で、ひそか
に妻に稽古をつけてもらっているうちに、名人と呼ばれるまで強くなっていたのでした。
囲碁の勝負の事を聞き及んだ鬼は、神通力を使って、吉備真備を、隆昌女が玄東に囲碁の手ほどきをしている場所へといざないます。
隆昌女が玄東に稽古をつけている様子をじっと見ていた吉備真備は、一夜にして囲碁の極意をマスターしてしまったのでした。
いよいよ始まった囲碁の勝負は、唐側の予想に反して、なかなか勝負のつかない白熱戦となりました。
給仕役として、その場に出席していた隆昌女は、このままでは、夫の一目負けになると読み切り、密かに吉備真備が獲った黒石を盗み取り、自分の体内に隠し
てしまいます。
勝負が終わった時、玄東と吉備真備の獲った地の数は全くの同数の引き分けでした。
しかし、石をしまう段になって、黒石が一つ無くなっている事が発覚します。
絶世の美女として知られていた隆昌女に横恋慕(よこれんぼ)していた安禄山は、隆昌女が石を隠した事を知り、隆昌女の弱みを握って我が者にせんと・・・
隆昌女の身体を調べようとします。
しかし、吉備真備は、すでに勝負は済んだと、それを押しとどめ、隆昌女を救うのでした。
●隆昌女の死と日本への渡来
その後、長谷観音のつかわしたクモの助けを借り、その糸の導きによって、野馬臺詩を読む(「野
馬臺詩の謎」参照)という難題をもクリアーした吉備真備は、みごと「簠簋内伝金烏玉兎集」を手に入れ、日本へ帰国する事になりました。
吉備真備に恥をかかされた安禄山は、その途中、真備を襲って殺そうとします。
しかし、その吉備真備の危機を察知した隆昌女が、自分の生命をかけて助けるのでした。
亡くなった隆昌女の霊魂は、「簠簋内伝金烏玉兎集」に取り付き、吉備真備と共に、日本に上陸します。
やがて、隆昌女の霊は、白狐へと変じ、安倍晴明の母となるのでした。
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