龍神楊貴妃伝

宇佐八幡神託事件1(道鏡事件と法均〔和気広虫〕)

●称徳天皇の道鏡への寵愛

 こうして、充実した日々を送っていた吉備由利でしたが、気がかりな事が一つ起っていました。
 それは、また、称徳(高野)天皇の悪い癖(くせ)が出て・・・恵美押勝にかわって、今度は、道鏡(どうきょう)に夢中になってしまった事でした。

 恵美押勝の乱の治まった直後の天平宝字(てんぴょうほうじ)8年(764)9月20日、高野天皇(孝謙上皇)は道鏡に大臣禅師(だいじんぜんじ)という位を授け、政治に参加させました。
 続いて、天平神護(てんぴょうじんご)元年(765)10月2日、称徳(しょうとく)(高野)天皇は道鏡を太政大臣(だじょうだいじん)禅師にします。すなわち、この時点で、道鏡は、恵美押勝と同じ位にまで昇り詰めていました。

 しかし、称徳天皇の寵愛(ちょうあい)は、これだけでは治まりませんでした。
 吉備真備が右大臣に任命された天平神護(てんぴょうじんご)2年(766)10月20日、道鏡に天皇と並び立つ最高権力である法王(ほうおう)の位を与えるまで行なったのです。

●称徳天皇の道鏡への天皇位譲計画

 さらに、称徳(高野)天皇は、道鏡に皇位(こうい)をさずけたいとさえ考え始めます。

 称徳(高野)天皇は、ずっと皇太子を定(さだ)めなかったのですが、これより前、天平宝字(てんぴょうほうじ)8年(764)10月14日の記事に、高野天皇(孝謙上皇)が、皇太子を定めない宣言と定めない理由について説明しています。
 簡単に言えば、高野天皇(孝謙上皇)は、この人!と思う人が現われるまで、後継者を定めないのだとしていますが・・・・あるいは、この時にすでに、心の中で道鏡に後継者になって欲しいという気持ちがあったのかもしれません。

 しかし・・・・いくら称徳(高野)天皇であっても、さすがに皇族でもない一般人を皇位につけるということはおいそれと出来ません。そこで、何らかの理由付けや証(あかし)が欲しいと考えたようです。

●宇佐八幡宮からの神託

 続日本紀の記述によれば、大宰府の主神(かんづかさ)(神主の長)の習宣阿曾麻呂(すげのあそまろ)は、宇佐八幡宮の神のお告げであると「道鏡を皇位に即ければ天下は太平になるであろう」と伝えてきたといいます。

 この時代、少なくとも称徳(高野)天皇は、現代人のように、天皇位を万世一系という思想から考えていたのではなく、中国の皇帝位のように、天命によって動き与えられるものだと考えていたのでしょう。

 称徳天皇は、この習宣阿曾麻呂(すげのあそまろ)からの報告を喜び、尼の法均(ほうきん)を呼んで相談した上、法均の弟の清麻呂(きよまろ)を宇佐(うさ)八幡(はちまん)宮に遣(つか)わして、神託(しんたく)を確認させる事にしました。

●吉備由利の妹分であった法均(和気広虫)

 さて、ここで、この尼の法均(ほうきん)について解説を加えます。
 法均は、出家する前の元(もと)の名を和気(わけの)朝臣(あそん)広虫(ひろむし)と言い、吉備真備と同じく、今の岡山県に勢力を持つ地方豪族の出身 だったようです。天平2年(730)の誕生とされていますので、高野天皇や吉備由利より10歳ぐらい年下です。15歳で、葛木(かつらぎの)連(むらじ) 戸主(へぬし)と結婚しますが、まもなく、夫の葛木連戸主と死別したために、高野天皇(孝謙上皇)の後宮(こうきゅう)に入り、高野天皇(孝謙上皇)に仕 える事になりました。葛木連戸主との間には、子が出来なかったようですが、広虫は、非常に母性愛の強い女性で、京中(きょうじゅう)の孤児を集めて養育し たと伝わっています。
 ※これは、私の勝手な想像ですが、広虫が孤児を養育した背景には、孤児であったと伝わる楊貴妃(吉備由利)の想いがあるのではないでしょうか?

 恵美押勝の乱で功績(こうせき)があったらしく、天平神護(てんぴょうじんご)元年(765)の正月7日に従七位下から従五位下と8階級特進し、同時に 勲6等を与えられています。(同じ日、弟の清麻呂(きよまろ)も従六位上右衛士(うえじ)少尉(しょうじょう)勲6等を与えられています。)そして、吉備 (きびの)藤野(ふじのの)和気(わけの)真人(まひと)の姓を賜(たまわ)ったようです。
 神護景雲2年(768)10月30日には出家し、大尼(だいに)となりました。これは従四位下相当の身分であると続日本紀に書かれています。

 このように、法均は、吉備由利とは別の意味で、高野天皇の最も信頼する腹心と言ってよい存在でした。

 法均が吉備由利の素性を知っていたかどうかはわかりません。しかし、吉備出身の法均は、その興味や性格などから言っても、吉備由利を姉のように慕っていたはずです。

 法均は、きっと宇佐八幡宮の神託をどのようにしたらよいかと悩み、吉備由利に相談したことでしょう・・・・。


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