龍神楊貴妃伝

白居易の「任氏行」・「古冢狐」

 白居易(白楽天)は、楊貴妃の生涯を詩文にした「長恨歌(ちょうごんか)」を 詠った事で有名です。

●長恨歌のプロトタイプ「任氏行」

 白居易は、長恨歌を書く前、「任氏行」という詩を発表していて、それが、とても、ヒットしていたようです。
参考 九州大学学術情報リポジトリ 白居易 「任氏行」考 静永 健 http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/3631/Bun104_p35.pdf
 残念ながら、「任氏行」は、今は、散逸(さんいつ)していて、残っていません。わずかに、数行をとどめているのみです。ですから、どんな内容だったか詳 しい事はわかりません。
 しかし、白居易は、詩人であって小説家ではありません。
 有名な長恨歌も、陳鴻(ちんこう)という人が、白居易の詩に対して、「長恨歌伝」という小説を書いています。
 白居易は、自分は詩を読み、それを他の人に小説を書かせる・・・・あるいは、小説から詩を詠むというスタイルをとっていたように思われます。おそらく、 「任氏行」は、「任氏伝」の内容を踏襲(とうしゅう)したものであったに違いありませ ん。

 沈既済(しんきせい)の方が年上で、「任氏伝」は、白居易が10歳ぐらいの時に発表されていますから、白居易は、沈既済に憧れ「任氏伝」を元に、「任氏 行」を書いたのでしょう。

 現在、白居易の著作を集めた「白氏文集」が伝わっていますが、その中に「任氏行」は、収録されていません。あるいは、白居易は、「長恨歌」を完成させる にあたって、自身で「任氏行」をそのプロトタイプとして、捨て去ったのかもしれません。

●白居易の書いたキツネの詩「古冢狐」


 もう一つ、白居易の書いた「古冢狐(こちょうきつね)」(「古墳(こふん)の狐」)という詩を紹介しておきます。
 
古冢狐,妖且老  古塚(ふるづか)の狐 妖にして且(か)つ老ゆ
化爲婦人顏色好  化して婦人となれば顔色(がんしょく)好し
頭變雲鬟面變妝  頭を雲鬢(うんびん)に変じ、面(おもて)を粧(しょう)に変ず
大尾曳作長紅裳  大尾(だいお)を曳(ひ)きて、長き紅裳(こうも)を作る
徐徐行傍荒村路
 徐徐(じょじょ)に行く荒村(こうそん)傍(かたわ)らの路(みち)
日欲暮時人靜處  日暮れんと欲(ほっ)する時、人静かなる処(ところ)
或歌或舞或悲啼  或(ある)いは歌い或いは舞い或いは悲しげに啼(な)く
翠眉不擧花顏低  翠眉(すいび)を挙(あ)げず花顏(かがん)を低(さげ)る
忽然一笑千萬態  忽然(こつぜん)と一笑(いっしょう)すれば千萬(せんまん)の態(たい)
見者十人八九迷  見る者十人、八九は迷う
假色迷人猶若是  仮の色、人を迷わす、なおかくのごとし
真色迷人應過此  真の色、人を迷わす、まさに此(これ)に過(す)ぐべし
彼真此假俱迷人  彼(か)の真と此(こ)の仮と俱(とも)に人を迷わす
人心惡假貴重真  人の心は仮を悪く真を貴重(きちょう)とす
狐假女妖害猶淺
 狐の仮の女妖(じょよう)の害はなお浅(あさ)し
一朝一夕迷人眼  一朝一夕(いっちょういっせき)、人の眼を迷わす
女爲狐媚害即深  女が狐媚(こび)を為(な)す害は即(すなわ)ち深く
日長月搏M人心  日に長じ月に増して人心(じんしん)を溺(でい)す
何況  何(いか)にいわんや
褒妲之色善蠱惑  褒妲(ほうだつ)の色善(よ)く蠱惑(こわく)して
能喪人家覆人國  よく人家(じんか)を喪(うしな)わせ、人国(じんこく)を覆(くつがえ)さん
君看爲害淺深間  君看(み)よ、害を為(な)す浅深(せんしん)の間(かん)
豈將假色同真色  豈(あに)、仮の色をもって真の色と同じくせん

 「古塚(ふるづか)の狐は、妖(あやかし)にして、老(お)うて、それは美しい婦人へと化けます。
 頭を雲のような髪に結い、顔に化粧をほどこし、大きな尾をくるりと曳(ひ)くと、それが、長く真っ赤な裳裾(もすそ)となります。
 旅人が、日暮れ時の人の静かな寒村(かんそん)の路道(ろみち)を行き交う時、歌い、舞い、一転、翠眉(すいび)をさげ、花顔(かがん)をたれて、悲し げに啼(な)いて気をひきます。
 忽然(こつぜん)と笑うと千万の色気があって、見る物の十人中八九は迷わせる事が出来ます。
 假(かり)の色が人を魅惑するのも、だいたいこれくらいは出来ます。しかし、本当の美女が人を魅了するのは、往々にしてそれを超えうるのです。
 相手が、真であっても假であっても、人を迷(まど)わす事にはかわりません。しかし、人間は、假を悪く、真を貴重とします。
 狐のにせの女性の妖艶(ようえん)な害はまるで浅くて、一朝一夕(いっちょういっせき)、人を魅惑(みわく)する程度です。
 本当の女性が狐媚(こび)を使う場合には、日増しに人の心を深く溺れさせていきます。
 本当の色香でなくて、どうして、褒妲(ほうだつ)(褒姒(ほうじ)・妲妃(だっき))のように人を蠱惑(こわく)して家を失わせ、国を転覆(てんぷく) させることができるでしょう。
 真の色と偽の色とでは、害をなす深さも違うのです。どうしてにせの色が真の色と同じだといえるでしょうか?」

  あまり、いい訳をさがせなかったので、私の方で、訳してみました。
 ですから、間違っている部分もあるかもしれませんが・・・・大意としてはあっていると思います。
 読者の皆様の御教授をいただけましたら幸いです。
  白居易は、褒姒や妲己の様な本当の美女でなければ、家を滅ぼしたり、国を傾けさせたりする事は出来ない(狐が化けた美女では不可能だ!)と言っている わけですが・・・・ここで、褒姒や妲己が、狐が化けた美女と比べられている(この時点で、褒姒や妲己が、狐の化けた美女と結びついている)事を、ご注目く ださい。

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どうか貴方自身の眼で確かめてみてください!

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